
禁断兄妹
第89章 禁断兄妹
KENTAROは青ざめた顔で
萌と手紙を凝視している。
彼が動かないのを見て
もう一歩
また一歩と踏み出す萌
離れぬよう共に足を進めながら
俺は手負いのライオンに近づいていくような緊張感を覚えていた。
俺に対して紳士的とは言えない振る舞いをしたKENTARO
万が一のことを考えると萌を近づけたくはないが
萌が自分で考え自分で決めたことは
まずは自由にやらせるのが俺の信条
余計な口出しはしない
けれど
必ず守る
萌のことは必ず俺が守る
萌の記憶が戻った今
その想いはこれまで以上に強く
揺るぎなく
俺を満たしている。
そしてついに
KENTAROが手を伸ばせば手紙に届くほどの距離まで
萌は足を進めた。
「どうか受け取って頂けませんか‥‥?」
両手の拳を
震えるほどきつく握り
動かないKENTARO
その視線だけが
手紙と萌の顔の間を
何度も揺れ動く。
迷っている
七年前
受け取れないと言ったKENTARO
でも
その後彼は
ずっと後悔していたのではないか
───‥‥巽が書いた手紙か‥‥───
先ほど俺が父さんの手紙を見せた時
KENTAROは落胆の色を見せていた
焼けと言った手紙が残っていたのではと
一瞬期待したからではないか
ならば今
受け取れば良いものを
「‥‥受け取る気は、ない‥‥」
絞り出すように
KENTAROは呟いた。
自分の視線を断ち切るように
首を振る。
「どうしてですか‥‥?訳を教えてもらえませんか」
萌の優しく穏やかな声が
受け取れず
だけど立ち去ることもできないKENTAROの葛藤を
包み込む。
「‥‥」
「読む資格がない、というお気持ちは、今も変わらないのですか」
KENTAROは俯き
無言のまま頷いた。
萌はしばらく黙って
そして
「私は柊から、こんな夏巳さんの言葉を、教えてもらったことがあります。
『叶えたい望みや夢があるなら、しっかりと胸に描いて、努力を根気よく積み重ねていくこと。それがいつの間にか階段になって、必ず手が届くようになる』‥‥」
KENTAROがハッとしたように
顔を上げた。
