
禁断兄妹
第89章 禁断兄妹
封筒には『謙太郎へ 夏巳』の文字
間違いない
母さんの字だ
「萌、これは一体‥‥」
萌は俺を見上げた。
どこか決意のようなものを
感じさせる瞳
「柊は全然知らなかったことだと思うし、きちんと説明したいと思います」
そう言いながら
KENTAROへ視線を戻した。
「‥‥七年前の話です。
死期を悟った父は、生きているうちに方をつけたいことがあると、母へ二つのことを頼みました。
一つは、夏巳さんのお墓に入れてある手紙を取ってくること。もう一つは、父のもとへKENTAROさんをお呼びすることでした。
『手紙を謙に返して、そして謙に聞きたいことがある』‥‥それが父の最期の願いでした」
───謙太郎君。
いや、昔のように謙と呼ばせてくれないか。
直接会って話をしたいと思っているが、もしそれが叶わなくなった時の為に、この手紙を書いておく───
胸元にある父さんの手紙の書きだしが
脳裏に蘇った。
「死期の迫る父の願いを叶える為に、母はお墓から手紙を取り出し、あなたと連絡を取ろうと奔走しました。そしてあなたが母の携帯へ電話をくださったのは、父の告別式の朝でした。
‥‥当時のことを、覚えてらっしゃいますか」
萌の問い掛けに
KENTAROは夢でも見ているような表情で
頷いた。
「あの時母は、周りに誰もいないところで話していると言っていたと思いますが、母からは見えない場所に、偶然私がいたんです。誓って言いますが、本当に偶然で、母は全く気がついていませんでした。
十三歳の私は、母が電話で話す内容を、息を殺して聞いていました。だから今言ったようなことを、知っているんです」
初めて知る
告別式の朝の出来事
萌のよく通る声に
七年前が
鮮やかに浮かび上がる
