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禁断兄妹

第89章 禁断兄妹


「萌‥‥───」


聞きたいことも
話したいことも
山ほど

どうして記憶が戻ったのか
どうやってここまで来たのか

でもそれよりも
何よりも

口づけたい

胸に広がる
幸福な欲望
甘美なときめき

腕の力を緩めながら
萌の首筋に埋めていた顔を上げた俺は
視界に入った人影に
思わず息を呑んだ。

数メートル先
茫然とした表情で俺達を見つめ
立ち尽くしていたのは
KENTAROだった。


「KENTAROさん‥‥」


俺の声に
腕の中の萌が
はっとしたように振り向く。

萌と目が合ったであろうKENTAROの瞳が
時を止めたように
動かなくなった。


夏巳‥‥?


開いたままの唇から
声が聞こえたような
気がした。

萌は面影や雰囲気が母さんとよく似ている
俺は幼い萌に初めて会った時からそう感じていた

粉雪に包まれた夕暮れの墓地は幻想的で
萌を見たKENTAROが
愛しい人の幻を追いかけるようにここへ戻ってきたことは
想像に難くなかった。


「萌、ご挨拶しような」


俺は萌を促し
その肩を抱いたまま
ゆっくりと立ち上がった。

萌は涙を拭いながら
深呼吸。


「こちらの女性は、一ノ瀬萌です。一ノ瀬巽と美弥子の娘で、私の大切な女性です。

 ‥‥萌、KENTAROさんだよ。俺の実の母の、お兄さんにあたる方だ」


「はじめまして。一ノ瀬萌です」


緊張の面持ちながらも
凛とした声で
美しいお辞儀をした萌

KENTAROは無言のまま
幽霊でも見ているような顔


「お会いできて嬉しいです。あの、私、KENTAROさんにお渡ししたい物があるんです」


萌は肩にかけていたバッグを開け
何か探し始めた。

予想もしていなかった萌の行動に
俺は驚きを隠せなくて


「え?萌、お渡ししたい物って‥‥?」


初対面な上
ここで会ったのも偶然なのに
何を持っているというのか


「‥‥これです」


萌が差し出したのは
白い封筒

KENTAROの瞳が
大きく見開かれた。


「夏巳さんがKENTAROさんに宛てて書いた手紙です。
 七年前、KENTAROさんが父の棺に入れて焼いて欲しいと言った、手紙です」

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