
禁断兄妹
第89章 禁断兄妹
抱きしめた腕の中に
力強い拍動と熱い息遣い
髪の香り
夢じゃない
幻なんかじゃない
萌
萌
魂が
震える
「柊‥‥っ」
俺にしがみつくように回されていた両手がほどけ
まだ肩で息をしながら
萌が顔を上げた。
白い息が重なるほど近く
薔薇色に上気した泣き顔
「私、思い出したの‥‥今日、全部、思い出したの‥‥」
萌の両手が
俺の頬を包んだ。
「ごめんね、柊‥‥」
俺を見つめる瞳が
切なく細められて
輝きながら
零れ落ちる涙
「七年もあなたを一人にして、ごめんね‥‥」
「‥‥っ」
言葉にならなくて
ただ首を振った。
萌の指が
壊れ物に触れるように
そっと俺の頬を撫でる。
「柊の言う通りだった‥‥記憶を取り戻すことは、痛みだったの‥‥すごくすごく、痛かった‥‥でも、喜びのほうが、比べ物にならないくらい、大きかった‥‥
柊、七年も私を待っていてくれて、ありがとう‥‥」
愛してる
柊
涙声で囁いた萌が
俺を抱きしめる。
これからは
ずっとずっと一緒
慈しむように
俺の髪を撫でる。
萌
あの身の毛もよだつような凄惨な体験
目の前で危篤状態になった父さんの姿
それを思い出した痛みよりも
喜びが勝ると
言ってくれるのか
「‥‥萌‥‥萌‥‥っ」
強く
強く
抱きしめた。
「痛かったよな‥‥苦しかったよな‥‥ありがとう‥‥ありがとう萌‥‥」
「うん‥‥もう大丈夫。大丈夫‥‥」
この時を
どれほど待ち望んだだろう
腕の中に萌がいる
信じ続けた永遠の愛が
ここにある
失ったもの
つけられた傷
その数はもう
数えない
全てが癒され
全てが報われ
今
光の中
「愛してるよ萌‥‥愛してる‥‥」
他にはもう何も
いらない
