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禁断兄妹

第86章 時を越え運ばれし手紙、それは運命の書



 夏巳の幸せを願ってるからこそ、という君の建前の裏に、俺は反吐が出るほどの独占欲を見ていた。
 自分を心から慕ってくれる美しく素直な妹、それを他の男に奪われるのが嫌なだけなんだろう?それもこんな年上の、取り立てて何か才能がある訳でもなく美しくもない平凡な男に奪われるのが、耐えきれないだけなんだろう?
 俺はどす黒い劣等感を刺激され、憤怒にまみれた。
 絶対に夏巳と結婚するのだ、それも予定通り夏巳の卒業を待って、そう固く決意した。
 愛する夏巳との結婚は俺の幸せだ。しかしそれは同時に君への一番の打撃となることを、俺はよくわかっていたからね。

 それまではどちらかというと、夏巳のほうが俺との結婚に積極的だった。母子家庭ということもあり、年上の俺への憧れや結婚への夢が強くあったからだ。しかし君の反対にあって結婚に二の足を踏み始めた夏巳に、俺は焦った。俺の心にはいつの間にか、君と競うような独占欲が、醜く膨れ上がっていたんだ。
 俺は強引にならぬよう、しかし巧みに夏巳の手を引いた。そして約束通り高校の卒業式を終えてすぐに、俺達は結婚した。 

 その結婚式に、君は来なかったね。それが君の答えだった。
 あの時の夏巳の悲しみはいかばかりだったか。結婚の喜びなどかき消えたのではないかと思うほどだった。
 うちひしがれた夏巳を見て、俺は愚かな妄執から全てを急いだことを深く後悔した。しかしそれを口にすることはなかった。
 なけなしのプライドと、とにかくもう夏巳は俺のものだ、という一抹の優越感が、全てを飲み込んだ。

 残念な結婚式ではあったけれど、俺達が深く愛し合っていることに変わりはなかったから、始まった新婚生活は、幸せなものだった。家に帰ると若く美しい妻が優しく迎えてくれる。想像以上の幸福に、君に対しての怒りも恨みも消え失せた俺は、いつかきっと認めてくれるさと、余裕のある心で夏巳を慰めていた。
 夏巳もしばらくは物思いに沈んだ様子だったが、俺の愛情と慰めを素直に受け入れて、清らかで天真爛漫な性格のままに、次第に明るさを取り戻していった。

 

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