
禁断兄妹
第86章 時を越え運ばれし手紙、それは運命の書
しかし夏巳が明るさを取り戻したのは、一瞬だった。
突然心と身体に異常をきたしたのは、結婚生活を始めてから十日ほどが経った頃だった。
俺がいつものように帰宅すると、心神喪失状態の夏巳がいて、会話もあまり通じていない様子で、そのまま寝込んでしまった。
嫌がる夏巳を無理に病院へ連れて行ったが、病気は見つからず、心因性のものだろうと結論付けられた。
夏巳の心身の不調はそれからずっと続いた。いつもふさぎ込み、具合が悪いと言っては寝込む。食欲もなく、俺との会話が苦痛のようで、スキンシップなどもっての外となり、セックスレスになってしまった。
どうしてこんな風になってしまったのか。謙が式に来なかったことがやはりストレスだったのかと夏巳に聞いても、違う、よくわからない、としか言わない。喧嘩をした訳でもなく俺には他に思い当たるふしがなかった。ある日突然に、という言葉がぴったりだった。
そんな中、夏巳の妊娠がわかった。
俺は飛び上がるほど喜んだ。セックスレスになる前まで、子供が早く欲しかった俺達は、避妊をしない性生活を送っていたから、それが明るいニュースをもたらしてくれた、これで俺達のぎくしゃくとした関係も明るく好転する、そう思った。
しかし夏巳は更に心身のバランスを崩し、堕胎したいと言い出した。こんな状態では育てられない、堕ろさせてくれと俺に泣いて頼んだ。
俺がそれを許すはずはなかった。愛する妻との間に授かった命だ。結婚初夜から毎日、早く子供が欲しいねと言って身体を重ねてきたのに、どうしてそんな悲しいことを言うのか。
今は悲観的になっているだけだ、結論を急ぐな、落ち着けと、何度もなだめたが、夏巳は納得しなかった。
みるみる痩せ衰え、生気を失っていく夏巳に、このままでは死んでしまうと思った俺は、断腸の思いで堕胎を了承し、共に病院へ向かった。
この時夏巳のお腹の中にいたのが、柊だ。
つまり、結局堕胎はしなかった。できなかったんだ。
