
禁断兄妹
第71章 君が方舟を降りるなら
「えっ、えー?!タカシって名字だったの?!」
「はい。ちょっと珍しい名字なので、下の名前だと思われることが多いです」
「まー、びっくり!萌もたかみちゃんも、先輩のこと下の名前で呼んでるんだと思ってたわ」
「これ、タカシ先輩あるあるです」
「もー、お母さん、普通先輩のことを下の名前では呼ばないよ」
「言われてみたらそうよね。
すっかりあるあるにはまってしまったわー。
タカシって、どんな漢字を書くの?」
タカシ先輩はそういう質問に慣れているみたいで
身を乗り出すお母さんに
丁寧に教えてあげている。
「あ、その難しい漢字って、有名な指揮者のタカシイチロウって人と、同じね」
「それは僕の父です」
「えええーっ!!」
更にびっくりするお母さんのリアクションが面白すぎて
私達は大笑い。
「タカシ先輩あるある二連発です!」
「まさか二回もはまるなんて!変な声出ちゃったわ。恥ずかしい」
みんなでひとしきり笑っていると
玄関から物音
「あっ、お兄ちゃんが帰ってきたみたいね」
えっ
もう
笑顔のお母さんがぱちんと両手を合わせて
私達の顔を見回す。
「私と同じでみんなのおしゃべりを聞きたいって言ってたから、きっと急いで帰って来たんじゃないかしら」
「きゃー、嬉しいけど緊張!ねえ萌ちゃん、私の口にマヨネーズとかついてない?!」
「だ、大丈夫。私は?」
「ついてないけど、萌ちゃんも緊張してるの?」
「えっと、そういう訳じゃないけど、なんとなく」
ナプキンで口元を拭いていたタカシ先輩は
深呼吸するように背筋を伸ばした。
「タカシ君は柊と会うの初めてよね?」
「いえ。二回目です」
