
禁断兄妹
第71章 君が方舟を降りるなら
告白してくれたタカシ先輩とお付き合いすることを決めたのは
お兄ちゃんへの想いから卒業しようと思ったから
お祭りの夜に
小さい頃からの憧れの想いと
ずっと理想の人だってことをお兄ちゃんに話したら
驚いたように目を見開いて
複雑な表情で言葉に詰まってて
困らせちゃった
引かれちゃった
その切ない気持ちが
先輩のほうへ私の背中を押した。
そんな気持ちから始めたお付き合いだけど
優しくて尊敬できる先輩のこと
ちゃんと好きになれそうな気がしてたのに‥‥
「これすごく聞きたかったんですけど、勝利者インタビューで『この喜びをどなたに伝えたいですか』って聞かれて、ファンのみんなとか道場の会長とか色々な方を挙げてましたけど、最後に『僕のマリアへ』って言ってましたよね」
たかみちゃんの言葉に
私も灰谷さんを見た。
「ああ‥‥はい」
灰谷さんは照れ笑いしながら頭をかく。
───‥‥そして、弟のユウキと、僕のマリアへ‥‥!───
高らかなファンファーレのような
とても晴れやかな声だった。
弟さん
マリア
私はその話を
前に灰谷さんから聞いている感覚があったけれど
他の色んなことと同じように
何も思い出せはしなかった。
「マリアって、聖母マリアのマリア様のことじゃないですよね?やっぱり、彼女さんの名前ですか?」
ワイドショーでも取り上げられてましたね、と悪戯っぽく笑いながら
ひじで突っつくしぐさをするたかみちゃん。
「彼女なんてとんでもない。
あの時は気持ちが高ぶっていたので、つい‥‥
まあ、私にとってマリア的な存在の方という意味です」
「マリア様みたいな女性ってことですか?すごい!素敵な方なんでしょうね」
「ええ」
「その人のこと、好きなんですか?!」
「えっ」
「僕も彼女さんとか、好きな女性のことかなって思いました。一ノ瀬もそう思わなかった?」
「そうですね。お母さんもテレビを見ていたんですけど、あら愛の告白ねー素敵ねーって言ってました」
和虎さんが『完全なるバカ』って言ってたことは
黙っておくことにした。
「あの時は本当に興奮状態で‥‥喜びを伝えたいと思っただけで、好きだなんて、そんな‥‥」
灰谷さんはしきりに頭をかいて照れ笑い。
事情はよくわからないけど
その様子は
なんだか可愛らしかった。
