
禁断兄妹
第63章 聖戦
───それをケンに───
ケンという名前の人を
私は知らない
でも
お父さんにとっては
きっと大事な人
大事な手紙
鞄を取り返したい
そして
逃げたい
ここから
一刻も早く
「か、返してください‥‥っ」
勇気を振り絞った一言にも
鞄を漁る手は止まることがなく
探すのが面倒になったのか
いきなり鞄が
逆さまにされた。
「‥‥!!」
座席の上に
教科書やノートが
バサバサと全部落ちて
散らばったその中には
携帯と
手紙も
無言のまま携帯を取り上げ
平然と操作を始めたその顔が
液晶の光に
照らされた。
瞬きもしない
細い瞳
何の感情も読み取れない
ぞっとするほど冷ややかな
無表情
さっきまでの快活な笑顔は
どこにもない。
怖い
力の抜けた全身が
ガタガタと震え
涙が
溢れ出す。
「携帯、返してくださいっ!‥‥返して───」
不意に
顔の前に突きつけられた携帯が
眩しく光った。
続いたのは
無機質なシャッター音
写真を
撮られた。
撮った写真を確認しているのか
再び携帯を操作する
その淡々とした横顔に
薄闇の中
蒼く立ち上るような狂気が
はっきりと
見えた。
