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禁断兄妹

第63章 聖戦



「‥‥手紙?」


急いで机の引き出しを開けると
そこには

一通の
白い封筒

中には何枚かの便箋が入っているようだけど
書きかけなのか宛名がなく
封もされていない。


「これ?これなの?!」


再び閉じてしまった瞳の前にかざして
大きな声で呼びかけた。


「もし‥‥もし俺が、このまま喋れなくなった時は‥‥それを、ケンに‥‥」


不確かになっていく呼吸の波間
必死に顔を覗かせる
途切れ途切れの言葉


「ケン?ケンって誰‥‥?

 ‥‥やだ、お父さん?!お父さん!!」


返事がない

蝋のように白い顔

瞼も
上がらない。


このまま喋れなくなる
なんて

まさか

そんな


「お父さん、お願いちょっと待って!眠るだけだよね?ちょっと休むだけだよね‥‥っ?!」


瞼が震え

ふうっと
その瞳が開かれた。


「お父さん‥‥っ!!」


私をじっと見つめる
切なく細められた瞳

唇がいくつかの形に
微かに動いたけれど

もう声を聞き取ることは
できなくて


揺らぎ
焦点を失った瞳は

再び
眠るように閉じていった。


私が叫んでも
看護師さんが駆けつけても

意識が戻ることはなくて


集中治療室へ運ばれていくお父さんを
私は為す術もなく
見送った───

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