
禁断兄妹
第63章 聖戦
「‥‥はあっ」
薄暗い車内
隣で大きく息を吐きながら
苛立たしげにネクタイを緩める横顔を
頬にかかる黒髪と
闇が隠す。
あの
この車は
なんですか
タクシーは
どうなったん
ですか
何ひとつ
言葉にならない。
カシラと呼ばれた
この見ず知らずの男の人は
そもそも
本当に柊の先輩なのか
頭をもたげ始めた疑念
せり上がる恐怖が
喉を締めつけて
声を出すどころか
さっきまでの全力疾走のせいで
呼吸さえ
ままならない。
「‥‥携帯貸して」
無表情な声と共に
いきなり伸びてきた手
持っていた鞄がひったくられて
喉の奥で
悲鳴をあげた。
この人は
やっぱりおかしい
この状況は
異常
だ
中に入れた手で
かき回すように漁られる鞄
その悪夢のような光景に
息を飲む。
手紙が
鞄には
お父さんから託された手紙が
入ってるのに───
