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ショートラブストーリー

第7章 高橋②

オーナーと喜美子さんが帰って、店には俺と真由美ちゃんの二人だけになった。

俺が洗い物をしてる音だけが店内に響く。

…もうすぐ片付けも終わる。何から切り出したらいい?

頭のなかで会話の流れを立て直していると、真由美ちゃんが話しかけてきた。

「高橋さん…聞いてもいい?」

「え…何…?」

「いっちゃん、って高橋さんの事?」

うわ。そっちかよ。

さっき喜美子さんが去り際に嫌味たっぷりの口調で

『いっちゃん、よろしくね』

って言ってったの、聞こえたのか。

水を止めて真由美ちゃんを見る。

「まぁ…そうだけど」

「『いっちゃん』って…一郎さん、とか?」

「一郎じゃないけど。…その話はいいよ」

実は。俺は真由美ちゃんに名前を教えていない。

自分の名前が嫌いで、例え真由美ちゃんでも名前で呼んでほしくないからって理由で。

「名前で呼ばれるの嫌だって、前に話しただろ?」

「そうだけど…でも、知らないのって変じゃない!?」

「呼ばない名前知ってるほうが変だと思うよ」

「そうじゃなくて!!」

真由美ちゃんは両手をぎゅっと握りしめた。

「恋人なら、名前知ってて当然でしょ…!?」

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