テキストサイズ

ショートラブストーリー

第7章 高橋②

「…何ですか?」

「お前ら、喧嘩でもしてんのか?」

オーナーにしては珍しく、抑え目な低い声に、俺は眉を寄せた。

「…だとしたら何ですか?」

「別れるのか?」

「…っ!!そんなの、オーナーには関係ない話だろ」

つい口をついた言葉にはっとした。

すぐに後悔した俺を鼻先で笑い、

「関係はないわな。俺はお前の親でも親戚でもないし。…だけどお前が『いっちゃん』の頃から知ってんだぜ?」

高校生の頃からここでバイトしていて、その時に皆から俺は『いっちゃん』って呼ばれてた。

バイトから正式採用になった時に

『ようやく一人前になったから名字で呼んでやるか』

オーナーの一声でその日から高橋って呼ばれるようになった。

「もうその呼び名は使わないって話だったろ」

「お前が一人前ならな」

オーナーは俺の胸に軽くパンチを入れると

「逃げんな。…じゃなきゃ『いっちゃん』に格下げするぞ!?」

そう言ってニヤリと笑い、俺の両頬をパンと叩いた。

「…いってぇ…」

「闘魂注入だ。ありがたく思え」

あんたはプロレスラーか!?

「ありがたいついでに、これ置いてくから。後始末しっかりしろよ」

と、出入口の鍵をテーブルに置いた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ