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来世にて

第2章 前世

「あまり時をかけてもいられない。
 秀吉殿はこの首を持って安土に戻られよ。」

家康は用意しておいた首級を指差す。

「この首は?」

「この数日の戦で命を落としたもの達だ。幸いこの暑さだ、皮を剥がねばなるまいからよもや誰とも判別はつかぬ。
秀吉殿は安土に向かい武功をたてられよ。」

「ならば家康殿は。」

「わしは命からがら逃げたことになっている。一度岡崎に戻り態勢を整えて戻って参る。」

秀吉は首を眺めながら呆然としている。

「さ、早よう。何人にも気付かれてはなりまぬぞ。」

促され、秀吉は供のものに声をかける。

「さすがにここで面の皮を剥ぐわけにはいかん。わしは明智殿を存じているためこの首は持ち帰れぬ。
わしはさきに戻るゆえ、数日したら面の皮を剥いでその首を持って参れ。」

「御意」

「では家康殿、後のことはまたいづれ。」

「承知した。」

秀吉は山を下りていった。首を持った供は人気のない山へと分け入っていった。

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