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来世にて

第2章 前世

「何故に、なぜに‥明智殿‥」

膝をつき泥だらけの顔を涙と鼻水でグシャグシャにした男はなおも問い続ける。

「致し方なきこと。信長殿もご承知であった。今頃は堺から南蛮船に乗られポルトガルへ向かわれているはず。
誰かがやらねばならなかった。この日の本の国を守るために。明智殿はその重責を担われたのだ。決して殿を討たれた訳ではない。秀吉殿、明智殿を恨んだり、ましてや討たれたりしてはなりませぬぞ。」

「なれど、徳川殿‥」
 
秀吉はグシャグシャの顔をあげ納得いかない目を家康に向けた。

「すべては信長殿から託されておる。この家康にお任せ頂けぬか。」

家康の口調は穏やかだが有無を言わせぬものがあった。
この中で家康と対等に立ち向かえるものはいない。ここにいならぶ者は家康以外は信長の家臣であった。

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