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来世にて

第2章 前世

10日も経たぬうちに、道三から呼びつけがあった。
今まで何度か戦勝の接待に呼ばれていたが、
武功をたてた者への酌は1、2度するだけで、あとはなぜか道三の酌をさせられていた。

楓は嫌な予感を拭えなかった。

侍女に従って道三の部屋へ入る。その部屋は道三の寝所と繋がっている。

「楓に御座います。」

部屋の手前で手をつき、頭を下げる。
既に人払いをされた部屋に道三は一人でいた。

「おうおう、待っておったぞ。」

道三は相好を崩し、近くによれと手招きをする。
楓は意を決して、道三の前へ進み出る。

「向かい合うのでは、酌はできぬ。横に来ぬか。」

楓は少し距離を置いて横に座り、道三の盃に酌をする。
既に酔いの回った道三は、楓の肩を抱いた。
とっさに楓は身を固くする。
そのしぐさが、道三を煽ってしまったようだ。

「生娘とはかわいいものよ。そんなに固くならずとも、なにもせぬゆえ案ずるな。」

道三の言葉とは裏腹に更に楓は身を固くする。男を知らない楓にとって肩を抱かれるだけでも一大事だった。

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