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来世にて

第2章 前世

「父上、父上は居られませぬか?」

突然の帰蝶の訪問に、表の男たちは慌てていた。
道三の都合も聞かずに、帰蝶は居室の襖を開ける。
驚いた道三は、話をしていた家臣を下がらせた。

「おやおや、突然の姫の訪問。何か御座ったか?」
道三は崩れんばかりの笑顔を娘に向ける。蝮と呼ばれる男もこの姫にはかたなしだ。

「父上、楓を戦勝の接待に呼ぶとは何事ですか?楓は私の侍女。表の侍女ではございませぬ。」

「何事かと思えば。確かに楓はそなたの侍女。表の接待に呼ぶのはいかがかとは思うがの、戦勝の席には大概 楓の父もおるゆえ父と会う機会を設けておるだけじゃ。」

といい 少し表情を変えて帰蝶に顔を近づける。

「それに、楓もそろそろ縁談があってもよい年頃じゃ。家臣の若武者どもが手柄に楓どのを頂きたいなどと言う者もおってな。さすがに帰蝶の侍女をほいこれとやるわけにはいかん。それに楓にはこれから帰蝶のそばで働いてもらわねばならん。
かといって、戦で武功をあげたものを邪険には出来ぬゆえ、せめて酌だけでもと呼んでおったわけよ。」

道三は、帰蝶と楓を交互に見て、意味ありげな笑みを浮かべる。

「楓は男どもから人気がある。わからんでもないがの。」

「父上!」

「まあ、そうゆうことゆえ、少し頼まれてくれまいか。大事ない、決して手は出させぬゆえ。」

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