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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第1章 恋花(こいばな)一つ目~春の夢~壱

 だが。ハッとして女の顔を見、その白いすべらかな頬が濡れているのを見てしまった清七は愕然とした。
 何故、この美しい女は泣くのだろう。先刻の出来事がよほどこたえたものか。涙に濡れた美しい女の顔に、清七は刹那、心を鷲掴みにされてしまったようでもあった。
 清七は女の細い手首を掴んで立ち上がらせると、そっと手を放す。心のどこかで、ずっと女の手のやわらかさを確かめていたいという想いがあった。

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