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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第1章 恋花(こいばな)一つ目~春の夢~壱

 できる限り優しい声音に聞こえるように言う。しばらく待っても女が動き出す気配がなかったため、仕方なく手を貸して立ち上がらせてやった。
 想像以上にやわらかな女の手の感触に清七が戸惑っているその時、澄んだ声が沈黙を破った。
「―優しい方なのですね」
 しっとりと甘く潤んだ春の夜気の底でほのかに香る花のかおりのような、そこはかとなく甘さとけだるさ、それに愁いを含んだ声が妖しく男の心を揺さぶってくる。

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