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不器用なタッシュ

第4章 シエロ

彼女は照れ臭そうに、俺を見詰めて


「これからも…頑張って下さい…これからも…ずっと見てたいです。須永さんを。」


『ずっと…。』


俺の人生に、無縁な言葉だよな。
でも、彼女が言ったなら先が存在する気がしてしまった。


「…ずっとか…」


ずっと見ててくれるかな…。


ズキンっ…て、今までの古傷が疼くんだ。


でも今だけは、何故か素直に嬉しくって笑えた。


「ありがとう…。」


微笑む彼女が、温かい。


トックン…。


拡がった色彩が、鮮やかに色付く。


この時は、まだほんの興味でしかなかった。


寧ろ恋愛にもつれ込ませたくないとさえ思った。


彼女の気持ちを解っていながらも、この心地良さを失いたくなかったんだ。


でも…そんなのは無駄な事だった…。





彼女は確実に俺を染め始めていて、気付けば彼女を通して世界が広がり…

無意識に、渡辺香織が全てになっていたんだ。


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