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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

「―治助」
 小文は思わずその名を呟いていた。
 刹那、胸の心ノ臓が速くなった。頬が熱くなる。
「お嬢さま、俺に何か?」
 治助が小首を傾げた。よほど急いできたものか、呼吸が荒かった。
 治助はよもや小文が恋心を抱いているとは想像だにしていないだろう。治助を想うあまり、つい呼び出してしまったけれど、果たして治助がどう思うだろうと考えると、小文は後悔に苛まれた。

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