
月琴~つきのこと~
第1章 第一話【宵の月】 一
いかほど待ったであろうか、やがて、最後まで消え残っていた陽の輝きも完全に失われ、紫紺の空に早い星々が瞬き始めた。淡い闇が庭の隅々まで垂れ込め、ここ二、三日で急速に開いた桜の花たちがほの白く浮かび上がって見える。
頭上高く張りめぐらされた枝越しに、銀に輝く宵の月が見えた。細い月はいかにも頼りなさそうで、枝に辛うじて引っかかっているように見える。やはり、治助にとっては迷惑だったに相違ない。小文が諦めの吐息を洩らしたまさにその時、向こうから駆けてくる人影を認めた。
頭上高く張りめぐらされた枝越しに、銀に輝く宵の月が見えた。細い月はいかにも頼りなさそうで、枝に辛うじて引っかかっているように見える。やはり、治助にとっては迷惑だったに相違ない。小文が諦めの吐息を洩らしたまさにその時、向こうから駆けてくる人影を認めた。
