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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

 信濃屋の奉公人は大勢いるけれど、迂闊にこんなことを頼めば、すぐに惣右衛門の知るところとなってしまう。今、頼めるのは、おさよしかいなかった。
 まだ完全には暮れ切らぬ西の空が茜色から次第に菫色に変わる。刻々と変わりゆく空の色を、小文はじっと眺めた。果たして、治助が来るかどうかは判らない。こんなことをされて迷惑だと思われるかもしれない。

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