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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

 若い娘の身で男を夜に呼び出すなぞ、はしたない、蓮っ葉な女だと思われるのではないか。惚れた男にそんな風に思われるのは嫌だが、現実にこうして治助を呼び出してしまったのだから、言い訳はできない。
 何より、治助と直接話をするには、こうして呼び出すしか術(すべ)はないのだ。信濃屋の主の娘の小文と下男である治助が昼間言葉を交わす機会は殆どない。
 小文は言葉を紡ぎかけて、躊躇(ためら)った。はきと物を言う小文には極めて珍しいことであった。

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