テキストサイズ

月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

「姉(あね)さま、どうかしたの。最近、変」
 十三になる妙乃が不思議そうな顔で問うけれど、まさか治助のことを話すわけにはゆかない。姉の結がいれば、真っ先に打ち明けて相談したろうが、いかにせん、頼りにしていた姉は既に佐野屋の人となっている。
 五つ違いの姉は小文にとって、いちばん近い存在であった。幼い頃からこの姉にだけは父母にも言えないようなことまで何でも話してきた。姉はどんなときでも茶化したり怒ったりせずに最後まで小文の話に耳を傾け、的確な助言を与えてくれた。姉はけして派手な女性ではなかったけれど、その分、慎ましやかで思慮深かった。今、姉がここにいてくれたなら―。小文はそう思わずにはおれない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ