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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

 それに、もう一つ、大きな問題があった。許婚者嘉平太の存在である。治助を知り、小文は嘉平太とはもう結婚できないと思っている。これまでは父の言うがままに嘉平太を聟として信濃屋を継ぐつもりできた。だが、心底惚れた男ができた今、最早、治助以外の男に添うことなぞ考えられない。
 治助を知って、小文は初めて人を想うことを知った。それは、紛うことなく生まれて初めて知った恋であった。

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