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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

 小文はハッとして治助を見た。すると、治助は狼狽したように首を激しく振った。
「も、申し訳ありません。大番頭さんが卯之助さんを探していらっしゃって、私に呼んでこいと申されたのです。それで、探していたら、いつのまにか裏庭に来てしまって―、お嬢さまとは知らず―」
 治助は傍で見るのも気の毒なほどに狼狽(うろた)えている。折角雇われることになった奉公先をこんなことで首になったらと心配しているのかもしれない。

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