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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

「治助さん」
 道理で小文が見憶えのないはずだった。上仕えの奉公人だけでなく下仕えの奉公人とも隔てなく接する小文の記憶に、この若い男の名前はなかったのだ。
「お嬢さま、お嬢さまの前でこんなことを申し上げるのは何ですが、治助はあろうことか、お嬢さまが脚をお洗いになるところをずっと物影から盗み見していたのでございます」

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