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月琴~つきのこと~

第3章 第二話 【月琴~つきのこと~】 一

 やがて、姉が出奔してから三年が経った。その間、小文からは何の沙汰もなく、ついに惣右衛門は小文は死んだこととすると苦しい胸の内を信濃屋の内儀、つまり小文ら姉妹の母おつたや主だった奉公人に告げた。世間には、小文が病篤くして静養先で亡くなったと公表し、亡骸の無いまま小文の葬儀がひっそりと出された。小文の墓には亡骸の代わりに小文がかつて愛用していた琴の爪が収められた。

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