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?…好き…?

第32章 ドライブ…

車は駐車場の出入口に運転席が向いていたので、彼女は運転席に入ると思っていたのだが、車の前を通過した。
後部座席にチャイルドシートがある。
あぁ、チャイルドシートに赤ん坊を乗せるのか…
俺は思った。
その瞬間
ガチャリ
助手席のドアが開く。
…へ?…
彼女は、いきなり俺の腕に赤ん坊を置いた。
…!?…
一瞬驚いたが、俺は直ぐに赤ん坊に目を奪われていた。
可愛い…
なんて可愛いのだろう…
「おっきくなったねぇ~」
俺は赤ん坊に向かって話し掛けていた。
その後には、無意識に人差し指で赤ん坊の頬を優しく撫でていた。
ほんの数分だったのだろうが、暫くの間そのまま赤ん坊を抱き、話し掛けたり、指で顔に触れたりしていた。
俺のゴツイ指を、赤ん坊の手の中に持って行くと、その小さな指がこちらの指を触る。
可愛い…
本当に可愛い…
だが、お別れだ。
「さて、小児科行かなくっちゃ」
彼女の声も別れを告げてきた。
俺は車を降りて、後部座席のチャイルドシートに赤ん坊を載せた。
「そいじゃあね」
別れを惜しんでいる時間はないだろう。
挨拶もロクにせずに、俺は歩き出した。
少しでも立ち止まったら、ずっと帰りたくなくなる様な、そんな気がした。
そんな事に、そんな気持ちに、なるより、家族の元へ帰ろう、何故かそんな風に思えた…
何度か通っているその駅前の道を歩き、どこにも寄らず、直ぐに駅の改札を通過し、ホームへと降りた。
列車を待つ間、考えたくない気がするのに、考えてしまっていた。
何で彼女は、わざわざ子供達を連れて来るまで、俺を待たせたのだろう…
いくら、新生児を迎えに行く時間で、一般的な保育園の迎えの時間ではないとはいえ、あんなすぐ傍で、男が待っていていいのだろうか…

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