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君のため。

第84章 ~カラオケ後~

結局カラオケは彼が1曲歌っただけで終わる。

「お昼からもう散々歌ったから」


…ちょっとトイレ行くね。

鏡の前の自分の顔。

複雑な表情。

化粧をなおす。

私は一体…?


カラオケ店のロビー。
タバコの自動販売機をジッと見つめる彼。

…タバコ吸うの?

「吸わない。ボーッと突っ立ってて見てるとこなかったから」


店を出る。

「あんな抱いてほしいとかの未練がましいメールしてくるから。

頭と体は別もんだから仕方がない」


この後の会話をあんまり覚えていない。
でも彼氏彼女の頃とは明らかに違う彼の言動。もう優しくはない。
けれど、楽しかった。
以前とは違うのだけれど、
二人の軽快なやりとりに
やはり初対面ではない親密さを感じた。

でもすぐに、5分くらいで別れる。今から彼は保健所に行くらしい。

どんな別れ方だったかもあまり覚えてない。
ただ、一度も後ろを振り返らず自転車に乗って彼は去って行ってしまった。
付き合っていた頃は別れの場、何度も振り返ってくれたのに。

なんで私は冷静に判断できなかったんだろう?
もう全て終わっていることに。


馬鹿みたいだけどこの時の私は、
 
彼に会えた嬉しさを、

どんな形であれ私の身体を求めてくれた喜びを、

ただただ噛みしめていた。

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