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君のため。

第83章 ~カラオケだから~

「スッキリした顔してるよ」


終わった後に彼は言った。


…なんでこんなことを…?


「辛そうだったから。
今はスッキリした顔してるって」


…⁉


1曲だけ最後に彼が歌う。
藤井フミヤの何か。

私は泣いている。

この後、彼に
「なんでこの歌で泣くの?あー。~な歌詞だからか」
と1人で勝手に納得していたけど。


実際、私はタイトルもおぼえていない。歌なんか全く聞いていない。

もちろんさっきまでされていた事について泣いていたのだ。

痩せてしまったというのに病院も行かないという彼を心配して来たのに、
元気なのか顔を見に来ただけなのに、
結局、私は彼からの乱暴な行為に対して拒むことができなかった。

それが悲しくて。
やっぱり私は何処かでそういうことを期待していたのかもしれないと。
自分が情けなくて。
泣いていたのだ。


そして歌い終えた彼は一方的に話し始める。
今会社の女性社員が労働条件の待遇の悪さで心の病になって訴訟になって、今入院していて…


…そうなんだ。

と聞いていながらも何処かで違和感。
女の勘って怖い。
少し後で彼女が出来たと言うことを知るんだけれど。
私はすぐに、この女性社員さんのことを思い浮かべる。

そして思った通りだった。


ちなみに最後に彼が歌った藤井フミヤは、その彼女さんが好きだということも耳にしてしまう。


この辺りで私も自分の愚かさに気づけばいいのに。

彼はもう一途に彼女さんだけを愛していて、

これっぽっちも私の入る隙間などないのだ、ということに。


しかしまだまだその事を理解するのに時間がかかる。
あと1ヶ月。

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