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変人を好きになりました

第25章 日時を定めて

「ごめんなさい。なんでもないです。私、疲れたみたいです。先に寝てもいいですか?」
 自分で聞いておいて、そして勝手に拗ねる。これでは子供と変わらない。
 泣きそうだ。
「だめだ」
 黒滝さんの手がベッドに潜り込もうとする私の手をひっぱる。それでも泣きそうな顔を見られたくないから、首を横に振ってその手から逃れようとした。
 黒滝さんも引かなかったらしく、もつれるようにベッドに倒れこんでしまった。

 仰向けに倒れる私の上に黒滝さんが覆いかぶさる。
「見ないで……っ」
 涙が溢れてしまっている。黒滝さんの想いは私への罪悪感が基盤になっているのではないかとずっと思っていた。それを口にしてしまうのが怖かったのに、どうしてあんなこと聞いてしまったんだろう。
 何も聞きたくないのに。

「黒滝さん、どいてください」
「いやだ」
「どいてっ」
 怒鳴るように言っても黒滝さんは表情ひとつ変えずに私を見下ろしてくる。

「古都」
 急に名前を呼び捨てにされて怒鳴ろうと開けた口を閉じる。
「勘違いしないでくれ。僕は古都の瞳がこんなことになるずっと前から君のことが……好きだったんだ。罪悪感がないと言えば嘘になる。だけど、古都を好きな気持ちにそんな余計なものは入っていない」
「黒滝さん……」
「だから、もう勝手に悩んだりするな。いいか?」
 眉を下げ、眉間に皺を寄せる黒滝さんに何を言えると言うのだろう。言葉から偽りの気配はいっさい感じることができない。
「……はい」
「敬語はなんと言ったか忘れたか? それと、僕のことをそんなよそよそしく呼ぶのはもうよしてくれ。古都」
 そう言いながら黒滝さんはベッドに投げ出された私の腕を掴む。逃げられなくなった恐怖が幸福に感じてしまう。そうやってずっと掴まれていたい。

「柊一……さん?」
「なんだ」
 黒滝さんが悪戯な笑みを投げてよこすから私も自然と笑顔になった。
「柊一さん。変なこと考えてごめんなさい」
「分かればいい。あ、そうだ」

 黒滝さんの手が私から離れたと思ったら急に視界が真っ暗になる。何かを顔に乗せられたのだ。枕?

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