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変人を好きになりました

第25章 日時を定めて

 髪を梳かれるたびにどきまぎしてしまう。耳の後ろや頬の輪郭に時折指が触れては心臓が跳ねる。
 でも黒滝さんの指で髪を触られていると幸せになって、鏡越しに黒滝さんの手と顔を永遠に交互に見ていたくなる。

「どうだ」
「ありがとうございます」

 慣れていないのか、こまめに熱くないかと心配したように聞いてくるのも可愛らしい。綺麗に髪がつやを取り戻すと黒滝さんは両手で包み込むように頭を撫でた。
「今度は私がする」

 無理矢理黒滝さんを座らせると短い髪をせっせと乾かす。あっという間に乾いてしまうのが憎らしい。
「ありがとう」
「ふふっ」
 笑うと黒滝さんも頬をゆるめた。思わず唇に目を奪われる。

「古都さん、こっちに」
 全面ガラス張りの大きな窓の前に黒滝さんが立った。
「え?」
 眼鏡を取り上げられる。
「これを」
 差し出されたのは小さなケース。私には縁がないと思っていたけれど……これは。

「でも、私の目にはいれられないんじゃ」
「古都さんの眼球の変化は色彩だけだ。コンタクトをいれても問題はない。それに、これは古都さんのために世界シェア1位のメーカーと僕が共同で作ったものだから、安心してつけてほしい」
 初めて目にいれるコンタクトは怖かったけれど、入ってしまえばなんてことなかった。それより、何もつけていない感覚なのに視界がみちがえるほどクリアになったから驚いた。

 鏡に映る自分の顔を見る。
 右目の色が深い緑色をしていた。
 黒滝さんが真剣な表情で私を見ていた。胸が痛む。
「違和感は?」
「ない、です」
「よかった」 
 安心したようなその言葉に私は不安を募らせる。

「黒滝さん……」
「なんだ」
「黒滝さんが私のことを気にしてくれるのは後ろめたいから……ですか? 目のことがあるから、それで私によくしてくれるんですか?」
 思い切って尋ねると、黒滝さんが固まった。

「なんのことだ」
 誤魔化しているのかと思ったけれど、表情を見て違うと思った。本当にわけが分からないといった顔をしていた。

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