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変人を好きになりました

第18章 本当の故郷

 久しぶりの我が家のお風呂。各部屋に備え付けられたお風呂場よりも私の部屋のは少し大き目につくられているのは内緒だ。

 私が日本を離れている間、定期的に掃除業者が出入りして隅々まで綺麗にしてくれていたおかげで、いつもと変わりなくお風呂を使うことができた。1年半分成長していた私は抜かりがないなと感心する。自分で自分を褒めるなんて馬鹿らしいけれど。


 さっきお見舞いと言ってやってきた由佳が私の顔を見ると泣きそうになりながら抱きついてきた。

 由佳は近くに住んでいて私が日本の小学校に転校してきた短い間で初めて親友になった友達だ。父が亡くなったとき、由佳のおかげで図書館で働かせてもらえるようになった。
 私も、由佳を見たときずっと長い間会っていなかったような気になって思わず抱きついてきた由佳の背中に腕を回して力を入れた。

 由佳の茶色い耳元までの髪の毛はさらさらで私の頬を撫でていた。顔をまじまじと見るとすごく美形だと思うし、美人には違いないのだが彼女の醸し出す気さくな雰囲気がそれを打ち消しているのだろう。

 抱きしめるのに満足すると私の顔をまじまじと見て、口元を歪ませた。まだ頭に薄いガーゼと、それから右目を塞がれているからだろう、由佳の視線が私の見えないほうの目に注がれていた。



 お湯の中に浸していた腕を持ち上げると右目に触れる。
 瞼を優しく触ると丸い眼球の形が分かった。人より大きいのではないかとよく思うこの瞳。それに加え、視力がいいのも唯一自慢できるものだった。



 だけど……。



「もう自慢できないな」

 頭に巻いているガーゼだって目を覆う包帯だって本当は不要だった。あえてつけているのは眼帯をしたくないからで、眼帯をすると本当に自分の目が見えなくなりそうで怖かったのだ。
 ガーゼや包帯なら今は怪我をしているからつけていると自分を騙せる気がした。

 幼い考え。
 先月までの私が知ったらどう思うだろう。少しは成長した私だったのなら、こんな馬鹿げた考えを一蹴してくれるかもしれない。

 網膜が傷ついている状態ではコンタクトレンズをいれることもできず、さらにまだこれから視力低下が悪化する可能性が大きいため眼鏡で調節することも望ましくないらしい。

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