
変人を好きになりました
第18章 本当の故郷
レーザー治療、硝子体手術、バックリング手術。
イギリスの病院に紹介された日本の眼科医の所へ行くとそんな単語を聞かされた。でも、どれにしたって私の場合、完治する可能性より合併症で悪化する可能性のほうが大きいと告げられて一緒にきていたクロタキさんも口を告ぐんだ。
クロタキさんは自分を責めているようだったけれど、私はクロタキさんが事故に関係していたとしても彼を恨んだりはできないだろう。左目だけで生活することに慣れてしまえばいい。
見えないわけじゃない。贅沢なんて言っていられないから。
クロタキさんが作ってくれる苦いお茶の味は相変わらず苦いまま。飲みやすくすると約束したのに、と冗談を言うと本気で落ち込まれてしまってからそんな軽口も叩けなくなってしまった。
一方、空良くんは望遠鏡を覗くのはどうせ片目だけなんだよとひまわりみたいな笑顔で言ってくれた。本当に無邪気な人だなと思って励まされる。
空良くんといるとこっちまで明るく元気になる。それは私だけじゃなくて、ほかの人も空良くんの近くにいるとパワーがもらえるのだと思う。
独り占めするにはもったいない人。そんな人が私の恋人だったらしい。不思議な話だ。
私はあんな恋人がいながらロンドンでクロタキさんと密会していたらしい。それを知った空良くんはすごく……投げやりになって出て行ってしまった。
「私、何考えてたんだろ」
本当はちっとも成長してなかったんじゃないか、私。1年と半年の間、何をしていたのだろう。人を傷つけることはしてはいけないよっておばあちゃんも言ってたのに、空良くんを裏切るようなことしたなんて最低だ。
大きな息を吐いて、湯船に口元まで浸かった。
口から吐かれた息がゴボゴボと音をたてて泡になった。
