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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 トスの瞳が一瞬、驚愕に見開かれた。
 キョンシル自身は気づいていないが、そのときの彼女は普段からは考えられない艶やかさを全身に纏っていた。
 二人は深い静寂の狭間で、見つめ合った。トスの手がそろりと伸び、キョンシルの頬に落ちた髪を掬う。ひと房の髪は無骨な指に絡め取られ、彼はひとしきりにそれを弄んだ。
 恐らく、時間にすれば、さして長いものではなかったはずだ。
 男を幻惑する美少女の唇があえかに微笑する。珊瑚色の小さな唇にトスの視線が吸い寄せられ、男の双眸に明らかな欲望の翳りが差した。

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