テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 しかし、キョンシルは到底食べる気になれず、気分が悪いからと早々に布団に潜った。
 二人の姿なんて見たくもなかったから、隣の小部屋に布団を引っ張っていった。
 しばらくして、トスが様子を見にきた。
―おかしいな。風邪でも引いたのかな?
 トスが額に触れた途端、キョンシルは汚いもののようにその手を振り払った。
―頭が痛いの、一人にさせて。
 トスに背を向けて、二度と振り返らなかった。トスが溜息をついて出ていった後、キョンシルは布団をすっぽりと被って声を殺して泣いた。
―お母さんもトスおじさんも大嫌い。大人は皆、薄汚い。
 眼を固く閉じても、しっかりと抱き合っていた二人の姿がありありと瞼に甦った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ