テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 その後、トスは母を優しく上向かせ、二人は狂おしく唇を重ね合わせていた―。
 家の中に入ろうにも入れず、キョンシルは再び外に出た。一人で適当にうろついて時間を潰してから帰ると、やはりトスは家にいたものの、ミヨンと二人で賑々しく夕食の支度をしている最中であった。
 野菜を刻んでいるミヨンが誤って包丁で指を切ったらしく、トスが滑稽なほど狼狽えていた。更に、彼は血が滲むミヨンの指先を咄嗟に口に含んだのだ。止血のためであろうことは明らかだったが、その艶めかしい光景は熱烈な口づけと共に幼いキョンシルの心に烈しい打撃を与えた。普段は滅多なことで眉一つ動かさない男なのに、と、何かとてもざらついた気持ちになったのを憶えている。
 その夜、トスはミヨンやキョンシルと夕餉を共にした。二人は夫婦よろしく睦まじげにチゲの準備を整えていたのだ。チゲは確かに美味かった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ