
側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第3章 旅立ち
その瞬間、彼女はふと考えたのである。果たして、仮にキョンシルが母の病のことを知っていたとして、本当に医者に引っ張ってでも連れて行っただろうか。
この考えが片時たりとも脳裏から離れなかった。
多分、いや、絶対に連れていったにはいっただろう。けれど、その行為とは裏腹に、心のどこかで〝母さえいなければ〟という想いになりはしなかっただろうか。
判っている。きっとこんなことを考える自体が馬鹿げているのだ。母が深刻な病だと知らなかったとはいえ、キョンシルはずっと以前から、トスをひそかに恋い慕っていた。
十二歳の冬、友達と遊びに出かけて帰ってきた時、トスが家にいた。その日、トスが来ることは知らず、母を愕かせようとそっと扉を細く開けたら、トスと抱き合っている母の背中が見えた。
この考えが片時たりとも脳裏から離れなかった。
多分、いや、絶対に連れていったにはいっただろう。けれど、その行為とは裏腹に、心のどこかで〝母さえいなければ〟という想いになりはしなかっただろうか。
判っている。きっとこんなことを考える自体が馬鹿げているのだ。母が深刻な病だと知らなかったとはいえ、キョンシルはずっと以前から、トスをひそかに恋い慕っていた。
十二歳の冬、友達と遊びに出かけて帰ってきた時、トスが家にいた。その日、トスが来ることは知らず、母を愕かせようとそっと扉を細く開けたら、トスと抱き合っている母の背中が見えた。
