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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 母の葬儀が終わってからしばらくというもの、キョンシルは悪い夢を見ているような心もちだった。これは幼い時分にしばしば見た悪しき夢の中の出来事にすぎず、次の瞬間か、めざめたときには何ら変わらない日常が待っている。
―キョンシル、キョンシル。何をうなされているの? 可哀想に、また怖い夢を見たのね。もう、大丈夫よ。
 揺り起こされ、再び母の声で眠りに落ちてゆく前に見た夢の中。
 きっと、まだ自分はその夢のなかにいるのだと思い込もうとした。だが、日々が流れ、次第に現実を直視できるようになった時、初めて母の死という厳然たる事実を受け容れざるを得なくなった。

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