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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 恐らく、その想いはトスも同じだろう。そう思うときだけ、キョンシルは今は亡き母に妬みに似た感情を抱いてしまいそうになる。既に亡くなった人―、しかも若くして不幸な亡くなり方をした母親にどす黒い感情を抱く娘。何て親不孝で心の醜い怖ろしい人間なのだ。
 キョンシルは自分で自分が嫌になる。
 その時、一陣の風が桜の梢を吹き渡り、一斉に花びらが舞い上がった。くるくると狂ったように風に嬲られ飛んでゆく花びらたちのゆく方を眼で追っている中に、キョンシルの心を覆っているすべての余計なものも剝がれ落ち、風に乗ってどこかに運ばれてゆく。
 残ったのはただ一つの想い。自分はトスを愛しているという事実だ。キョンシルは、改めて母の死以来、こだわり続けてきた疑問に対峙した。 

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