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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 持ってゆくものは殆どない。当座の着替えや常備薬や非常食などを風呂敷に纏めた。
 待っていてくれる人も残してゆかねばならない人もいない。柵(しがらみ)がないのは気楽ではあったけれど、この上なく心淋しいことでもあった。
 これからどこにゆくのか、自分がどうなるのか、いや再び生きて都の地を踏むのかどうかすら判らなかった。
 この頃、一つの疑問がキョンシルの頭を離れなかった。母ミヨンの存在はトスだけではなく、キョンシルにもいまだ大きな影響を与え続けている。ミヨンが亡くなって日にちが経てば経つほど、面影は薄れるどころか、かえって鮮烈に刻み込まれてゆくようであった。

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