テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 既に樹齢何百年といわれている古桜である。春にこの樹が満開になると、ここいらに棲む者たちは誰からともなく集まり、男たちは桜の樹の下で酒を酌み交わし、女たちは歌い踊る。子どもたちは散り敷いた花びらで様々な遊びをして過ごした。
 今は既に盛りも過ぎ、桜の周りはひっそりと静まり返り、人影どころか、通りかかる犬猫も見当たらなかった。
 昨日、トスと共に知り合いの寺を訪ね、幾ばくかの金と共に母の位牌を預けてきた。都を離れている間、そこで亡き人の供養をして貰えるので、安心して旅に出られる。小さな寺だが、年老いた住職はトスとは古くからの知り合いらしく、彼の口利きのお陰でミヨンの葬儀のときも、その住職が読経を手向けてくれた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ