
側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第3章 旅立ち
キョンシルがそんな想いに耽っていると、トスのしみじみとした述懐が耳を打った。
キョンシルは桜を見上げた。
今夜、幾重にも重なった薄紅色の花の向こうに、月は見えない。母の葬儀を終えてから、既に十日を経ていた。哀しみのまっただ中には満開だった桜も半分が散り、キョンシルが佇む足許には花びらが隙間なくびっしりと散り敷いて桃色の絨毯がひろがっている。
ここはキョンシルの暮らす家の裏にひろがる空き地だ。何故か、この場所には昔から大きな桜が一本だけ植わっていた。この近隣一の長生きといわれる老婆ですら、嫁いできたときには既に今と変わらない大きさだったという。
キョンシルは桜を見上げた。
今夜、幾重にも重なった薄紅色の花の向こうに、月は見えない。母の葬儀を終えてから、既に十日を経ていた。哀しみのまっただ中には満開だった桜も半分が散り、キョンシルが佇む足許には花びらが隙間なくびっしりと散り敷いて桃色の絨毯がひろがっている。
ここはキョンシルの暮らす家の裏にひろがる空き地だ。何故か、この場所には昔から大きな桜が一本だけ植わっていた。この近隣一の長生きといわれる老婆ですら、嫁いできたときには既に今と変わらない大きさだったという。
