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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 ミヨンの細腰に回されていたトスの逞しい腕や、何度も離れては重なっていた二人の唇、トスの口に銜えられたミヨンのほっそりとした指先。子どもにはあまりにも衝撃的すぎる光景が忘れようと思えば思うほど、逆に鮮やかに再現された。 
 しかし、そんな光景を目撃してからでさえ、キョンシルは、母がいなくなれば良いなどと一度も願ったことはない。裏腹に、自分という足枷がなければ、母はすぐにでもトスと結婚できるはずだと、自分が二人にとっては前途を阻む障害でしかないのだと引け目に思っていた。
 ゆえに、母が心臓を病んでいるのだと知っていれば、すぐにでも医者に連れていっただろう。
 それでも、もしかしたら―、知っていても知らないふりをしたのではないか。ちらりと考えてしまうのだ。

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