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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

 赤地には薄紅色の撫子の花が小さく刺繍されている。ソンの精細な刺繍模様を撫でる白い指先がかすかに震えていた。
「それから、この指輪もお返ししなきゃ」
 キョンシルは自らの指に填めていたカンラン石の指輪を抜き取り、ソンの手のひらに落とした。
「これは私が持つべきものではないでしょう。やっぱり、ソンがこれから一緒に暮らす王妃さまのものよ」
「判った。そうしよう」
 指輪を袖にしまうソンを見ている中に、キョンシルはこの半月余りの出来事が一気に押し寄せてきて、涙ぐんだ眼をしばたたくと喉がつまった。

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