
側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥
突如として抱き寄せられたかと思うと、彼の長い指が頬を流れ落ちる涙を拭った。
用心しながらも信頼するような光が、キョンシルの眼に兆した。ソンは少しの躊躇いの後、手を伸ばした。
そっと顔を引き寄せられ、引き寄せられるままに広い胸に顔を預ける。この抱擁には、男女の濃やかな情というよりも、むしろ、ソンの真心、感謝の意味合いの方がより多いのだと漠然と理解できた。
ゆえに、突然のことに愕きながらも、無理にソンの手を振りほどいたりはしなかった。
やがて、ソンは自らの未練を振り切るかのように、もどかしげに首を振り、キョンシルの身体を前方に押しやった。
「元気で。身体に気をつけて暮らすのだぞ」
それが、キョンシルがソンの声を聞いた最後になった。
用心しながらも信頼するような光が、キョンシルの眼に兆した。ソンは少しの躊躇いの後、手を伸ばした。
そっと顔を引き寄せられ、引き寄せられるままに広い胸に顔を預ける。この抱擁には、男女の濃やかな情というよりも、むしろ、ソンの真心、感謝の意味合いの方がより多いのだと漠然と理解できた。
ゆえに、突然のことに愕きながらも、無理にソンの手を振りほどいたりはしなかった。
やがて、ソンは自らの未練を振り切るかのように、もどかしげに首を振り、キョンシルの身体を前方に押しやった。
「元気で。身体に気をつけて暮らすのだぞ」
それが、キョンシルがソンの声を聞いた最後になった。
