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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 永遠にも思える静かな時間が過ぎ、トスはゆっくりと振り向いた。
「キョンシル、俺は漢陽をしばらく離れようと思う」
 キョンシルが弾かれたように面を上げ、トスを見上げた。
「俺の人生は一ヶ月後、新たな転機を迎えるはずだった。だが、現実には、その転機は失われ、永遠にめぐってはこない。ならば、俺はもう一度、自分の歩む道を探さなくてはならない。心を整理して、少しじっくりと考えてみたいんだ。俺が新たになすべきことは何なのか」
「そう」
 キョンシルは気のない返事を返し、また、うつむいた。トスにはトスの人生がある。幾ら父親代わりになると言ってくれたとはいえ、〝行かないで〟と束縛する権利はキョンシルにはない。

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