テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 先刻、キョンシルが供えたばかりの線香がゆらゆらと紫煙を立ち上らせている。キョンシルはその頼りなげな煙をぼんやりと眼で追っていた。
 もう、何も考えたくなかった。ただ、眠りたかった。母のいないこの世は、あまりにも辛くて淋しすぎる。トスの説得で母の後を追おうという考えは棄てたものの、キョンシルは明日から、何を心の支えに生きてゆけば良いのかすら判らない。
 トスは小さな祭壇の前に長い間、座り込んでいた。小さな位牌となってしまった母をじいっと見つめている。その静謐すぎるほどの横顔からは、彼の思惑を推し量ることはできない。今、彼の心は亡くなった母ミヨンだけに向いているのだろう。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ